両眼注視点の解析
概要
この研究では、実際に、物体を観察している時の注視位置を計測することにより、
視覚情報取り込みから空間認識過程、注視位置決定の機構について明らかにする
ことを目指しています。
ここでは、両眼立体視に必要とされる左右の像の対応が取れず誤対応となる
オクルージョンが生じているような状況での物体の観察と生じていない時の
物体の観察とを比較しました。
内容
生体の視覚系で最も優秀な機能の一つは、奥行き知覚です。
通常、私たちは空間内で物体の位置を瞬時に判断する事ができ、
物体に触れ移動させることができます。
この機能の手がかりとして、基本となるものが両眼視差情報です。
これは、両眼のある物理的な位置が異なるために映る像がずれを生じるものです。
逆に、像中の各点の対応を取ることができれば、奥行きを復元することが
可能になります。
その様子は、三角測量の原理と同じものです。
しかしながら、その対応を困難にするものがあります。
物体を観察する時には、必ず、奥行きに前後関係があります。
この時、手前にある物体は背後にある物体を隠す状態になります。
これを「オクルージョン」といいます。
この状況では、すべての領域を両眼で見ることができずに、片方の眼にだけ見える
領域も存在することになります。
この時、対応を取ることは不可能です。
また、物体が曲面を持ち、そこを観察する時(例えば、円柱の縁(rim,リム)
を観察)には、
両眼には、形状の似た像が映りますが、これらの対応を取ることは誤りです。
このような状況は、いつも生じているにも関わらず、私たちは、違和感を
生じることはありません。
そこで、実際に、どのようにして物体を観察しているのかを明らかにすることを
目的としています。
ここでは、オクルージョンの状況でどのような場所をどのようにして観察しているのか
を検討するために眼球運動の計測を行ないました。
これにより、洗練されたコンピュータビジョンシステムの構築にも役立つと
思われます。
オクルージョンの例
複数の物体が存在することによるオクルージョン
自分自身の面によるオクルージョン
この研究では、主に、この状況での注視位置とサッカード(跳躍的な眼球の運動)
間隔について分析しました。
眼球運動計測実験
実験装置概観
<左> 両眼眼球運動測定器(検出信号の増幅・フィルタ処理・ゼロ点および線形補正)
<左奥>制御用パーソナルコンピュータ、記録用コンピュータ(背面しか見えていない)
<右奥>円柱(対象物体)
<右> 顎台つき頭部固定装置と両眼眼球運動検出部(ゴーグル)
両眼眼球運動波形
0秒から3秒までは固視点を3秒から6秒までは円柱のリム(縁)を見るように指示した時の波形(水平方向の移動、30Hzのローパスフィルタ出力)
成果
論文
- 工藤博章, 魚森謙也, 山田光穗, 大西 昇, 杉江 昇:
- 「リムオクルージョンに誘発される両眼の注視位置の変化」
- テレビジョン学会誌, Vol.47, No.8, pp.1115-1122 (1993-08)
- 工藤博章, 魚森謙也, 山田光穗, 大西 昇, 杉江 昇:
- 「リム注視時の両眼の注視位置の分布 -円柱の上面が見える時-」
- テレビジョン学会誌, Vol.48, No.6, pp.717-726 (1994-06)
- 工藤博章, 魚森謙也, 山田光穗, 大西 昇, 杉江 昇:
- 「両眼網膜像の不一致検出と奥行き推定過程に基づ
いたサッカード機構 -注視位置とサッカード間隔の評価-」
- テレビジョン学会誌, Vol.50, No.4, pp.465-474 (1996-04)
国際会議発表
- Hiroaki Kudo, Kenya Uomori,Mitsuho Yamada,Noboru Ohnishi and Noboru Sugie:
- "Binocular Fixation-Point Shifts Induced by a Limb Occlusion"
- Proceedings of Annual Int. Conf. of IEEE/EMBS,
- Vol.14, pp.1670-1671 (1992-10)
- Hiroaki Kudo, Kenya Uomori,Mitsuho Yamada,Noboru Ohnishi and Noboru Sugie:
- "A Model of Saccade Mechanism Based on Occlusion Detection and Depth Estimation Processes"
- Proceedings of Annual Int. Conf. of IEEE/EMBS,
- Vol.18, 590, pp.1-3 (1996-10)
- (財)東電記念科学技術研究所国際技術交流援助を受けました。
研究会口頭発表
- 工藤博章, 魚森謙也, 山田光穗, 大西 昇, 杉江 昇:
- 「オクルージョンのある物体の両眼の注視点分析 -テクスチャの有無による差異-」
- 電子情報通信学会画像工学研究会、テレビジョン学会視聴覚技術/情報ディスプレイ/画像通信システム合同研究会,
- 電子情報通信学会技術研究報告, VOl.91, No.418,
- IE91-105, pp.41-48 (1992-01)
- 工藤博章, 魚森謙也, 山田光穗, 大西 昇, 杉江 昇:
- 「テクスチャの有無による物体注視時のサッカード駆動スキーマの違い -サッカード間隔の評価-」
- テレビジョン学会視聴覚技術研究会, テレビジョン学会技術報告,
- Vol.18, No.51, pp.19-24 (1994-09)
- E-mail:
- kudo@ohnishi.nuie.nagoya-u.ac.jp
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